新型車の販売促進キャンペーンのメーカーと販社の裏側
流通チャネルを巻き込んだキャンペーンが展開される新型車
新型車を発売するとなると、流通チャネルを巻き込んだキャンペーンが展開されます。
もとより、TVCMだけで売れるものではありません。
筆者が経営していたマーケティング会社へ、元請けの広告代理店から、
「運営事務局やらない?」
というオファーが舞い込みます。
事務局とはいえ、関係者の溜まり場で、広告代理店、販促会社、DM会社、クリエイター、イベント会社、そちら何屋さん?という方々が紹介の紹介でやって来ます。
それだけ裾野の広い人たちが、新型車の発売の裏側に関わっています。
そうして、期間中、弊社の狭い社内で、ワイワイガヤガヤ交流します。
もちろん、うるさくて仕事にならない迷惑料は、きっちり頂きます。
今にして思えば、このワイガヤが否応なく耳に入ることで、マーケティングの生きた勉強になっていたのかも知れません。
自動車メーカーと販社のチャネルの実例
販社の担当者が、メーカーさんの対応に怒っているらしい、そんなある日のこと。
自動車メーカーから広告を請け負っている広告代理店の担当営業マンが、マーケティング会社の弊社へ
「社長ぉ、参ったよ~。どうしよ~」
と飛び込んでしました。
「ん?どうしました?」
「福岡の販社の担当者が、メーカーの宣伝担当の対応に、怒っているらしい」
「そんなの、メーカーの担当さんが、詫び入れりゃ済む話でしょ?」
「その、担当さんが忙しくて……」
「電話一本できない?」
「いや、その、忙しいそうで……」
「怒鳴られたくないんでしょ?」
「両方かも」
「わかりました。私が怒鳴られますので、明日のスケジュールはキャンセルで」
と、その夜“とらや”のようかんを買い、翌朝、福岡へ、アポなしで、直行したことがあります。
訪問すると、在席していらっしゃって、
「わざわざ、東京から?」
と、申し訳なさそうに、
「それは、ご足労をおかけしました」
と謝ってくれ、
「え?僕が怒ってるって?いやだなあ、怒ってなんか、いないよ」
と、意外そうな顔。
さらに、手土産を受け取りつつ、
「とらやのようかんとは、細やかな気くばりだねえ」
と、とらやブランドの価値を理解なさっていました。
聞けば、東京での在勤が長かったそう。
その後、とらやのようかんを開け、お茶をご馳走になりながら、世間話に興じ、すっかり打ち解け
「近くに来たら、また、寄ってよ」
と、社交辞令とも、本気ともつかぬ別辞を頂戴し、帰ってきましたとさ。
もし、留守だったら?
最終便に間に合うまで待ちます。
大の大人が東京から来て、ギリギリまで待っていた事実が尊いので。
人は、権力の行使を無意識に感じ、満足します。
「怒っていなかった」のか?「本当は怒っていた」のか?定かではありませんが、重要なのは、人一人が動いた事実。
怒りの矛先だった自動車メーカーの担当者ではなく、関係者の名刺(広告代理店の運営事務局)を差し出した30代の若者であっても、ひと一人が動くのは影響力があります。
ましてや東京-福岡の遠距離で、しかも昨日今日の速さ。
交通費にしたところで安くありません。
お土産代もかかっています。
それが全てが、「直接お会いして」謝るという行為に凝縮されます。
無意識であっても、怒ってでも、人を動かすのは、権力です。
自動車の販売チャネルは、メーカーのほうが強いため、メーカーの宣伝担当が、販社から怒られることは、通常、ありません。
たとえ、親兄弟が、メーカーの研究開発と、販社の営業に努めていたとしても、新型車の情報は、洩れません。
資生堂のように、チャネルが強いメーカーの情報も洩れません。
それほど滑稽なまでに情報の漏洩は遮られます