顧客の価値と価値観の物語 - インターアクティブ・マーケティング

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顧客の価値と価値観の物語/価格は売る側が決め、価値は買う側が決める
1)水の価値
このような物語を、ご存知でしょうか?
ある金持ちと、商人の二人が、砂漠で遭難しました。
見渡すかぎり空と砂の中で、飢えと渇きに苦しみつつ、灼熱の太陽に炒られた熱砂に足を焼かれながら、折り崩れるように歩くうち、商人は、薄汚れた水筒を取り出しました。それを見た金持ちは、
「まだ水が残っていたのか!」
と叫び
「飲ませてくれ」
と、せがみました。商人は、
「あと一口しか残っていません。この水は命をつなぐ水です。私も命が惜しい。タダで差し上げるくらいなら自分で飲みます。しかし、私は商人ですから、あなたが買うのであれば、売ります」
といいました。金持ちは、
「おう!生きて帰ったら、いくらでも払うぞ。財産の半分を分け与えてもいい」
といいました。半分とはいえ、膨大な額です。商人は二つ返事で答えました。
「財産半分なら売ります。どうぞ」
と、商人が差し出した水筒を、ひったくるように金持ちは飲み干しました。
間もなく、奇跡的に、金持ちと商人は救助され、本国へ帰りました。
数日後、金持ちの家を訪ねる者がいました。商人でした。
商人は、
「水の代金を頂きに来ました」
といいました。
金持ちは
「おお、その節は助かった」
と、一枚の金貨を差し出しました。
「金貨一枚?」
商人は首をひねりました。
「水の値段は、財産の半分だったはず」
というと、金持ちは、
「確かにそう言った。が、一口の水で財産半分は法外。金貨一枚でもお釣りが来るくらいだ」
と突っぱねました。
信義の問題ではなく、水の価値として、あなたはどちらの主張が正しいと思いますか?
マーケティング・コンサルタント小笠原昭治
2)命の価値
商人は続けました。
「あのときの水は、命と同じ価値を持っていた。こんこんと湧き出る清水からすくった水ではなかった。飲まねば死んでいた」
金持ちは反論しました。
「そうかも知れん。が、もしもの話を前提に話は出来ん」
商人は顔色を変えました。
「あの時の水の価値が金貨一枚なら、あなたの命も金貨一枚の価値ということ。ならば、この金貨は要らぬゆえ、代金として、あなたの命をもらいうけよう」
商人はギラリと抜刀しながら続けました。
「水のお代は、命か、財産半分か、決めてもらいたい」
と。
金持ちは警察へ通報し、話は裁判所へ持ち込まれました。裁判長は言いました。
「お二人には、今から砂漠へ戻ってもらいます」
「は?」
「当時の所持品のまま再現して行ってもらいます」
「なんと!」
「たぶん、一日もせずに、同じ場面が繰り返されるでしょう」
「確かに」
「そこで和解できなければ、我々としては救出しません」
「死ねというのか!」
「熱波が吹く砂漠の上で、もう一度、お二人で、ゆっくり話し合って下さい」
こうして、見渡す限り砂だらけの丘へ二人は戻されました。
灼熱地獄の中を二人は歩きました。
果たせるかな、尋常ならざる喉の渇きに見舞われました。
金持ちは訊ねました。
「ワシには水が無い。アンタには水がある。どうして飲まんのだ?」
商人は答えました。
「商品ですから」
「商品?」
「商人は、商品に手をつけません。手をつける時があるとしたら、命の危機を感じたとき。つまり、命と交換する時だけです」
その話を聞いた金持ちは、商人の商品に対する価値観の重さを知って、
「参った」
と膝を折り、財産の半分を水の代金として支払いました。
マーケティング・コンサルタント小笠原昭治
話には後日談があります。それから数年後…
(ページ半分まで読みました)
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3)非常時の価値
数年後、あの時の商人が、金持ちの家を訪ねてきました。
金持ちは、
「面白くねえ奴が来た。追い返せ」
と取次ぎに言いました。承服したとはいえ、極限状態を背景に脅されたようなものです。砂漠で遭難する非常事態でなかったら、有り得なかった取引でした。日常の感覚では、とても納得できる金額ではありません。
しかし、取次ぎの一言で会う気になりました。「返したいものがあるそうです」
「返したいもの?よし、連れて来い」
金持ちの前に商人が現れました。
商人は、返したいものがあって来た旨を伝え、
「その前に」
と言いました。
「その前に?」
「金貨を一枚ください」
金持ちは怒りました。
「財産の半分でも飽き足らずに、今度は乞食に来たか!」
商人は肩をすくめ、
「いいえ。金貨一枚ぶんを差し引いて、あとは、財産半分そっくりお返しします」
と申し出ました。金持ちは不思議に思いました。
「どういうことだ?」
「あなたの財産半分を元手にして、その百倍は儲けましたから」(終)
マーケティング・コンサルタント小笠原昭治
4)欲求の価値
チャーリー・チャップリンの名画「殺人狂時代」の中に、
「一人を殺せば悪人。(戦争で)百万人を殺せば英雄。数が(殺人を)浄化する」
という名台詞があります。これは、ナチスドイツを風刺した台詞で、額面通りに受け取っては危険ですが、時と場所と場合によって、価値は変化することを端的に表現しています。
価値は、商業社会では、普遍ではありません。
身近な例では鯨。
平成生まれの成人は鯨肉を高級品だと思っているかも知れません。
しかし、以前は高級品どころか、いつでも安く手に入る、魚にして肉に似た食感の良質の食肉でした。
逆の例では、遠からずタバコが高級品になるでしょう。
タバコを吸っている人はお金持ちとの印象が定着するかも知れません。カリブ海における葉巻のように。
物語における水も同じ。
水の価値は普遍ではなく、現に今では、水が販売されています。水が、有料で当り前な時代になりました。
しかし、80年代までは、一部の商売(主に水商売)だけに閉ざされた商品でした。
90年代にペットボトルの水が販売され、市民権を得るようになり、現在へ至ります。
水は昔、タダで当り前でした。が、いつしか有料が当たり前になりました。
価値を具現化したものが商品であるとすれば、商品の価値も普遍ではなく、時と場所と場合によって変化します。
冒頭の物語によると、非常時における水の価値は財産半分に匹敵しますが、平時では金貨一枚で充分という
比較になっています。
価値とは、そういうことです。価値は、欲求を覚えている側が決めます。
その欲求は、365日24時間、均等ではなく、時と場所と場合によって異なります。
そういう意味で商売は、飢えているところへ、飢えているものを持ち込むのがもっとも効果的です。
欲求を覚えている側が、高値を付けてくれます。価格は、販売する側が決めます。
ところで、冒頭「このような物語を、ご存知でしょうか?」と訊ねましたが、ご存知も何も、ご存知なワケありません。
この物語は筆者の創作でした(笑)
楽しんで頂けましたか?
 (小笠原昭治/筆)
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